これからの生地とは?
  1)エアロシェルターをみての感じること。
私たちテント屋から見て究極のシート素材の要素とは、「強い」「軽い」「コンパクトにたためる」という3つのポイントを満足させるもの・・・ということが言えるでしょう。そのような意味でトラックシートに関していえば、軽量帆布が登場した時には期待するところ大でした。ただ、数社あるメーカーさんでの規格が統一されていないため、u当りの重量や強度とか、各社バラバラ(逆に言えば、それが特色だとでもいうかのように・・・)な性能を有しております。例えば、A社では軽いけれども引裂き強度がない。B社は引き裂き強度は強いけれど、ウエルダーが効きにくいとか・・・
だからお客様から「値段だけ高くてたいしたことないよ」なんていわれるのがおちでした。
私は以前からこのようなシートがあればいいなと考え続けているものがあります。それは、今から約20年前にテイジンさんで販売していた”Fキャン”と呼ばれるものです。ただ、同じ名称でも、現在のものは大型・中型テント用として用いられるものであり基本的にまったく違うものです。
以前のものはトラックシート用に開発されたものでした。その特徴といえば、いまでいうターポリンのようなもので非常に軽いのです。そして一番の違いは、10〜15mmの間隔で太い番手の糸が縦横に交差しており、さしずめ現在のクリスタルターポのシート版という感じです。この太い糸があるおかげで、たとえ一部が裂けたとしてもそこで止まってしまい、裂けにくいという特徴を持っておりました。(私たちはこのような糸づかいをしているものをリキストップと呼んでおりました。)かつ、当時はシート素材がビニロンからポリエステルに変わる過渡期。まして、ターポリンやPシートがはやりだしたころのことですから、ビニロンから比べれば非常にかるく、しかも強度があるため、トラック運送業者からは重宝がられたと思います。
ただ、欠点もあったのでしょう。想像するに、その生地はターポリンのようなものなので、フラッタリング(バタツキ)に弱いという事が考えられます。トラックを走らせていれば、特に冬場の寒い高速道路を走る場合、シートがバタついて最後部の角のあたりが凍りついて板状になり、折れるような状態になります。ひどいときには表面の塩ビ樹脂にヒビが発生することもあります。特に”Fキャン”は、ターポリンのようなものなので、通常のディッピング(ドブ付け)による表面処理とは違うため、表面剥離が著しかったのでしょう。着眼点は良かったのですが、いつの間にか忘れられてしまいました。そのような欠点を克服したら、軽くて、丈夫な布地ができるのに・・・と考えたのは私だけでないと思うのですが・・・。残念なことです。

昨年の3月、ジャパンショップを見学に行ったときのことです。テイジンさんのブースに、エアロシェルターというアーチ状のテントが展示されておりました。一見、Pシートのカラー版かなと思い、気にもとめず縫製部分しか注意してみませんでした。
後日、問屋さんがエアロシェルターのカタログと生地サンプルを持ってきてくださいました。見た瞬間”Fキャン”の生まれ変わりかなと思ったほどです。ただ、使用用途は、パラセーリングやウインドセーリング向けに開発されたものという事であり、非常に軽く、紙のようなものでした。「でも、まだこういうリキストップのものがあったんだ・・・。」驚きと嬉しさで飛び上がりたいくらいでした。


2003年11月。当社の営業マンから相談を持ちかけられました。実は、八戸にあるドームの下にテントを張るための材質についてでした。というのは、「ドームこぼれ話」にも書きましたが、ドームの天井から結露水が落ちて下の遊技場の操作盤にかかり、誤動作を起こしかねないため至急見積もってほしいというのです。大きさは30m*15m(扇形)。条件は、ドーム関係者でも取り外しができること。ドームの質感を残すため透明、または半透明であること。防水になっていること。消防法に引っかからないこと・・・の4点。最初、透明フィルムを考えたというのですが、強度からすれば弱いと思われるし、何かいいものがないかというものでした。すかさず、それだったらパワーリップ」でいいんじゃないということで、問屋さんに相談したら、防炎処理されているのはエアロシェルター用だけということであり、それだけのためにしか製造していないので、原反の販売は無理とのこと。それならば、寸法を指定し、加工してもらったらどうかと再度交渉。結果オーライの答えを得たため見積もりをし取り付けることになりました。下の写真がそのときのものです。半透明のシートに上からスポットライトが照らし出されちょっと幻想的なものに仕上がりました。シート自体の重さは先ほどの面積でも20kgにも満たないものだったと記憶しています。(間違っていたらゴメンちゃい)。改めて物性を確認すると、もう少々強度があれば、いろんなものに利用できるのになぁ・・・という感じですが、今後このようなリップ形式(格子状に強度をつけたもの)のものが見直され、ゆくゆくはトラックシートにも応用されないかなァ・・・とほのかに期待しております。

 


2) 韓国の「光るシート」とは?
2002年の春、「光るシート」の講習会に参加しました。簡単に言えば”ELシート”とでもいうべきものです。100Vの電気を通すと、シートそのものが発光するのです。通常ELは室内用にしか利用されませんでした。それはELそのものが湿気に弱いという理由からです。でもこの素材は、繊維の中に伝導体が入っており、表面に樹脂をコーティングしているので、屋外でも使用可能というのです。これを使えば、蛍光灯が不要になるばかりか、普通のオーニングの金具に施工できるので、非常に薄くてローコストのバックリットができるし、発行する懸垂幕・・・なんてのもできます。大げさに言えば、看板業界の革命児的な素材とでもいえるでしょう。当時は600mm巾の出荷サンプルしか生産されておりませんでしたが、今後2m巾まで拡大する予定とのことでした。でも、販売権の問題で日本の会社がためらっているとの事。現在ではどのように推移しているのか分かりませんが、現実に日本の流通に流れていれば、テント業界もすごく変わるのになァと思う今日この頃です。

3) 天井材がシートで?
私が以前に勤めていた30年前のお話。当時担当していた商品は、スウエーデン製のシート素材。用途は集合住宅の天井材として使おうというもの。・・・というと皆さんは「天井材がシートでできているなんて聞いたことないよ・・・」とおっしゃるでしょうネ。それもそのはず。日本の建築方法にはない北欧独自の工法だからです。そのシートは、タテ・ヨコ・ナナメとも3%の伸びがあるのです。1mにつき3cm伸びるのです。実際には、部屋の寸法から3%短く裁断したシートの端に”ツリバリ状”の形をしたものを高周波ウエルダーで熱溶着します。部屋の回り縁はそのシートのヒッカケをうける構造になっているのです。そしてシートを薄いヘラで少しづつ回り縁に引っ掛けていくのです。プレゼン用の8ミリフィルムでは(当時は現在のようなビデオが普及しておりませんでしたので・・・年代が分かりますね。)ゴムみたいにシートが伸び、「ウッソ〜〜。シートってこんなに伸びるの???」って感じ。普通このように伸びるような素材であれば、カッターで切りつけたくなるもの。風船がバクハツするようなシートの破れを期待しましたが、何の反応もないのです。このシートの特徴として、何らかの理由で破れたとしても、一時間はその形を保っているのです。時間が過ぎれば切り口が広がりますが、先ほどのい1時間のうちにシートをつまむようにして瞬間接着剤で補修するのです。上からぶら下げるもの・・・例えば電灯の配線の穴の部分は同じ素材でパッチをあて穴をあけるだけ。そのシートのプロジェクトは、当時の消防法の問題で挫折しましたが、現代の法律ではどうなのでしょうか?。最近の建築基準法や消防法を調べていないので分かりかねますが、意外と面白いものだと思います。建築以外の用途でもこのようなシートの利用が可能ですネ。例えば複雑な曲線の装飾オーニングが簡単にできるし、いろんな用途に応用ができると思います。

4) NASAからの贈り物

東京出張からの帰路、私は新幹線の中で一冊の本に夢中になっておりました。本の題名は「NASAの技」 中冨 信夫著(カッパブックス)
NASA (米国航空宇宙局)で開発されたさまざまなスピンオフ(技術波及)を紹介したものです。その中で、これがトラックシートに応用されればすごい便利だなァと思われるものを紹介したいと思います。

a) アルミ蒸着フィルム・・・風船衛星からの活用
1960年代の通信衛星の中には、マイラーポリエステルというプラスチックの薄膜フィルムの表面にアルミニュムを真空蒸着塗装した風船衛星があり、その素材がスピンオフされ緊急用ブランケットとして市販されております。特に登山家の間では、必須携帯品としての評価が高いといいます。。そのフィルムで体を包んだときには体から発散される熱の82%を保熱する性能があり、簡単に言えばフィルム状の断熱材といってもよいでしょう。しかも、引張り強度も強いので、そのフィルムを非常用簡易タンカとしても利用できるというス・グ・レ・モ・ノ。通常、断熱材といえば、発泡ポリエチレンとか発泡スチロールがよく使われます。それらを断熱シートとして使う場合、最低でも4mmくらいは欲しいもの。シートとシートの間にそれらを挟みこむのですから、重たくなりますし、ガサバッテ加工性が悪くなります。もし、ポリエステル帆布にアルミ蒸着されているものがあれば、軽くて加工性のよい断熱シートができると思うのですが・・・・


b) スペースシャトル オービター用の制動用パラシュートからの活用
スペースシャトルのオービター用の制動用パラシュートの素材は、ナイロン系の3軸織物を利用しているといいます。縦横の2軸で編まれた通常の織物と違い、3軸織物は、互いに60°の角度をもって織り糸が交差しており、どの方向からの引張りにも強く、2軸織物に比べて8.75倍の強度を持っているといいます。このことを利用してシートの基布を3軸にしたら、現在ある軽量帆布より数倍強いシート生地ができるのに・・・と考えるのは、私が素人だからでしょうか・・・?基布のメーカーさんから言わせれば、現在ある設備を活用できないためコストが高いものになる・・・ということが考えられますが、日本のトラックシートやシートハウスの総需要数量から考えれば、そんなにたいした投資額とは考えられないのですが・・・?
いずれにしても、新しい商品を開発するには、我々が持っている常識の枠にとらわれないことが大事なこととつくづく感じた新幹線の中の3時間でした。