めざせ 「巧」

私は会社の社長(雑用係?)でありますが、ミシン職人でもあり、資格とすれば、労働大臣認定の一級技能士でもあります。
すなわち、3つのわらじをはく男・・・といえば格好がいいのですが、できればあと一つ「巧」の称号をもらいたいものだとつねづね思っております。「現代の名工」「巧みの技を持つ男」・・・格好いいですね。職人として究極の目指す称号だと思っております。
社長業をやる前・・・いつもミシンを踏み、座席のビニール掛けの作業をしていたときの話です。「今日は三菱ふそうさんの1.5t車か・・・」と座席にビニールをあてがい、縫込み線をチョークで書き、縫いしろ分(私の場合は約10mm)をいれていざ裁断というとき、ふと我が目を疑いました。というのも、これからビニールにハサミを入れようとする先に黄色い線が見えたのです。あたかも、ここを切るんだよとでもいうかのように。
通常、自動車の座席というのは、まっすぐな部分ってありませんよネ。背の部分でいえば背中が当たる部分より両脇の部分が少し持ち上がっております。このような時は一定の縫いしろ分をみて裁断するというよりも、通常10mmのところを4mmに抑えるとか、ワンキョクが激しい場合は殆ど縫いシロをみないとか、そのときその時の状況から経験と感で裁断します。この加減が難しいのです。先ほどの黄色い線というのはそのような状況を加味しての裁断線だったので、自分でもびっくりしました。「巧の技」ってこんなことをいうのかなと、一人悦に入っておりました。そのような状況がずっと続いておりましたが最近ではデスクワークの方が忙しくなってからはミシンを踏む機会も少なくなり、同じ作業をしてもそのような黄色い線が見えるということがなくなりました。やはり、職人の頂点というのはないんだ。そのような技能は、同じ作業(ミシン踏み)を継続していかなければ維持できないんだとつくづく感じ入りました。デスクワークは月のある期間だけ、それも最小限度にして、あとはミシン踏みをしていかなければ「巧技(タクミワザ)」に近づけないんだと感じ、心機一転ミシンを踏んでおります。
目指せ「巧!」

  巧は道具をつくっちゃう。
職人というのは道具を大切にします。私にすれば、ハサミとミシンが一番大切なものです。ハサミは去年新しくしました。実は、今まで慣れ親しんでいたハサミが折れてしまったのです。28cmのハサミを使いこなし15cmまで短くなったハサミは、私にとって思い出深い物でしたが、しょうがなく新しいものにしました。実は、私が社長に就任した時に皆に「大事に使ってください」という言葉とともにプレゼントしたのですが、私の分だけ使わずにしまっておいたのです。というより、以前からの短いハサミを使っていると、28cmのハサミが長すぎて使いずらかったからです。運よく2004年の3月から4月のなかばにかけて、ずっと裁断ばかりの仕事をして慣れましたが、久しぶりに以前の壊れた物を握ると逆に違和感があり、どうしてこんなのを使っていたのかなァ・・・(笑い)。
話は変わりますが、「テント屋さんはいいネェ。ハサミとミシンがあれば商売できるもん・・・」なんておっしゃる方がいらっしゃいます。半分当たっていることもありますが、実は違います。私たち職人は、道具を作ることが多いのです。大工さんは、カンナひとつでも削る部位により何種類ものカンナを使い分けると聞きます。市販されていないものがあれば自分で作ったりすると聞きます。(こだわりがある大工さんの場合ですけど・・・)。私たちテント屋もこのような道具があればいいなと思えば,古くなって捨てる一歩手前のものをサンダーで削ったり溶接したり、また木材を買ってきていろいろ細工します。極端なことを言えばアルミのフラットバーも道具に早代わりします。何種類かの巾のフラットバーを用意しておけば、細かい仕事でシート地を25mmにカットしたり15mmのところに線を引かなければならないとき、フラットバーの一辺を当てれば定規になったりカッター定規にもなります。私が最初に作った道具は、同じ方向のメガネスパナ。通常メガネスパナを横から見れば”S”の形をしていますネ。わずかばかりの曲がりなのですが、それがジャマだったのです。当時日産自動車のマイクロバスの座席(特に寄りの座席)をはずすとき、空間があまりにも狭すぎてスパナではボルトにひっかからないし、メガネスパナでは独特の”まがり”がじゃましてぶつかってしまいます。そのため、必要とする#12のメガネ部分をサンダーで切り、反対向きに(すなわち横から見ればコの字の形)溶接したのです。このおかげで、脇の壁にぶつかることなくスムースにボルトをはずすことができました。またよくやるのは、ミシンの中押さえの片方をサンダーでカットし、片押さえとともに利用すること。通常、タマブチをかけるときは片押さえにし中押さえも変えますが、市販の中押さえではタマと針との間隔が1.5〜2mmぐらいでます。それがいやなのです。できるだけ針をタマに近づけようとして先ほどのものを作りました。今ではなくてはならないものとなっております。(注意しないと自分の手を縫ってしまうことがあります。私は親指を縫ったことが2回ありますが、ミシン針を抜くときにクロウしました。)
今回の仕事では、2種類の道具を作りました。ひとつは長方形にカットしたベルポーレンの四隅を丸くカットするための道具。(これは使い古しの穴あけをサンダーでカットしただけです。) また、曲線の箱状の裏側に裏布を接着する際に”馬(ウマ)”を作りました。このおかげでシワがなく張ることができたのです。このように私たちは必要なものがあればそれに見合った道具をそのたびに作るということが・・・というより、そのことによりきれいな商品を提供したい一身で作るということ。これが「巧」に一歩近ずくものと考えます。めざせ「巧!」

巧は外注加工はしない!??

ある問屋さんから、青森のテント屋さんは、「よく言えばお人よし、悪く言えば仕事に対する貪欲さがないですね。」といわれたことがあります。どういうことかお尋ねすると、仕事を依頼しにこられたお客様に対し、「今忙しいから○○テント屋さんにいって頼んでくれ」とせっかくのビジネスチャンスを逃している現場を見たとおっしゃるのです。私はその現場に立ち会っていないので詳細は判りかねますが、内心 青森のテント屋さんならそのように言うかもしれないな・・・と感じました。それは、テント総会の懇親会を見れば解ります。当組合の懇親会は、メーカーさんや問屋さんには興味のマトであり、恐怖の場所だからです。本来、組合のメンバーというのは、普段はライバル同士です。距離が近ければ近いほど「アンニャロめ!」という感情がわき上がるのは当然ですが、青森県の組合のメンバーは、お互いを認め合っているのです。私が出来ないときはあの方ならできるますよと素直にいえる心の広い持ち主だからです。そして、「今日は普段のシガラミは忘れて存分に楽しもう。明日の朝食以降はお互いライバルだから、それまでは一緒に楽しもうじゃないか!」というメリハリをつけることのできる性格の持ち主が多いからです。ですから、懇親会の席ではメーカーさん・問屋さん関係なく、皆さんハダカにされるし・・・強制的に踊らされるし・・・・
私は、県組合の副会長という立場から、「東北ブロックの会議」や「北関東・東北ブロック合同会議」の会合(今はなくなりましたが)に参加しますが、私たちと同じような和気あいあいとした雰囲気の組合さんといえば、私の知るところでは茨城県の組合さんたちでしょうか。それは理事長さんの指導力によるものが一番ですが、それを補佐する方たちもいっぱいいらっしゃるということでしょう。私なんか茨城県の理事長さんには「お父さん」と言わせてもらうくらいお世話になっています。また、個人的にも茨城県の組合員さんたちとはいろいろくだらない話もしますし、ヒトサマには言えぬ内緒の行動もしました。(アッ、いけない。ゴメン、茨城の○○テントさん。お互い互助精神で内緒にしましょうね。) どちらかといえば、お互い同業者の人格を信頼尊重する気持ちで接しているからでしょう。

話を元に戻しましょう。考え方には表と裏があります。「今忙しいから○○テントさんにいって頼んでくれ」という言葉は、自分が残業すれば住むことではありますが、逆にお客様に時間的にご不便をかけることになります。だからよそのテント屋さんに・・・」というお客様大事の精神だと思います。南部地方に「南部の一つのこし」という言葉があります。大きな皿に盛られた食べ物を皆でつつきあう。そして最後に一つだけ残ったとき、誰も最後の一つには手をつけないことを言います。人はそれを南部の一つ残しと言ってもったいないこととしてさげすむ方もいらっしゃいますが、逆に言えば 「私が最後の一つを食べたら他の人が食べられなくなる・・・だから私は遠慮しましょう」 という謙虚さの表れだと思っています。
ゴメンナサイ。本当に私って話があちこちにいってしまいますね。最初の話は・・・アッ、そうそう、よそのテント屋さんへ頼む・・・ということでしたね。逆によその県のテント屋さんはどのようにしているのか興味がわきますよね。その問屋さんいわく、そのような時な問屋さんに外注に出すんだそうです。でも、なんで外注に出すのでしょう。自分ができないから・・・?納期に間に合わないから・・・?そんなことはないはずです。なぜならば、自分がミシン職人だからです。職人ではなく経営者ならばわかりますが、長くミシンを踏んでいれば、職人としてのプライドとやってあげたいという気構えがあって当然です。ではなぜ?考えられることは二つ。時間がないということを言い訳にして本当は面倒くさいから。または金額の割には手間が込んで採算割れしているから。職人さんはいつもミシンをふんでいれば、急なご依頼のお客様がこられたとしても、昼食時間を削ってでもお客様のために作らせてもらうものです。そこには労働基準監督署の残業(労働時間 over)・・・・そんなこと関係ない。職人さんはお客様の笑顔が見たいんです。喜んだ顔でサイフを開きお金を出してくれる・・・。お金を受け取って喜ぶのは経営者。職人さんはお客さんの喜んだ顔を見て自己満足するだけです。そこにはお客様・経営者・職人さん・・・三者がお互い満足に満たされた世界が広がっているのです。
私は、経営者でもありますが、胸を張ってミシン職人と言っております。経営者の世界に浸りすぎて職人としての意識を持たなければ、味気ない世界に陥るからです。したがっって、私どもの会社では、殆ど製品の外注はしておりません。それが、職人としての意地だと考えるからです。(今年はそのおかげで5月に2日、12月に1日。徹夜でミシン踏みの作業をしました。トラさんじゃないけど、職人さんってツライよ)。